はてなへの住所登録の義務化撤回について

はてなでは、11月1日にユーザーの住所登録を義務化する方針を打ち出し、住所登録をお願いするご連絡を行いました。

その後、住所登録に関するご意見を多数頂き、11月10日からは大幅な方針転換も視野に入れたパブリックコメント募集期間を設け、23日まで意見募集を行ってまいりました。

多数のパブリックコメントを頂き、はてなにて今後の方針を決定しましたので、ここにご報告させて頂きます。

具体的行動指針

個人情報について

  • 既に登録された住所情報を全て破棄し、住所登録を行ったユーザーに説明、謝罪を行います。(11月25日中)
  • はてなが収集した個人情報の利用目的・開示条件・管理体制等をより明確にし、プライバシーポリシーとして公開します。(11月25日公開、12月1日発効)
  • はてな内のサービスや社内のセキュリティ対策を強化し、公開可能な範囲で情報を公開します。(随時)

運営方針について

  • 今後、ユーザーが負担を負う大幅な方針変更の際は、事前にユーザーからの意見募集を行います。
  • はてな内の違法情報や規約違反情報の取り扱いについて、手順やガイドライン、事例をさらに整備し、明確化します。
    • 12月上旬に手順の公開を行います
    • 順次、ガイドライン、事例の充実を図っていきます
  • 法律、セキュリティなどの各分野について、専門家との連携を強化し、各専門分野に関する方針決定の際に参考とします。

根拠

今回の住所登録の義務化については、当初の方針を最終的に撤回するという、大幅な方針転換を行う結果となりました。また、11月1日の発表以降、皆様の混乱を招き、はてな全体の雰囲気が変化するほどの大きな問題となりました。

この様な異例の事態を招いた要因は、はてなの、種々の問題に関する認識や取り組み不足が最大の原因であったと考えています。

一方、住所登録の方針発表以降、パブリックコメントなど多数の貴重なご意見を頂いたり、各分野の専門家にも積極的に意見を求める中で、当初の認識になかったご意見を伺うことができました。

以下、今回の住所登録に関連する主な論点それぞれについて、主な意見の概要と、はてなでの検討内容をご報告します。

法的解釈について

  • 今回はてな住所登録を義務化する必要があると判断した根拠は、「ユーザーの正確な氏名や住所を確認しない場合、違法情報が登録された際などにはてなが法的責任を負う可能性がある」というものでした。
  • この問題については、はてな内外のブログなどで法律専門家の間でも議論が起こり、様々な見解があることが分かりました。
  • はてなが当初考えたように、過去の判例などから、違法行為を行うユーザーの十分な本人確認を怠った場合に、ブログ事業者が違法行為を教唆・幇助したとされる可能性があるとする意見がありました。
  • 一方で、プロバイダ責任法上、サービス提供者は違法な情報を具体的に認識できてから責任が発生するのであり、現状のはてなのサービスで「主体性」が認定されるとは考え難く、判例の解釈は間違っているというご意見がありました。

はてなの対策・見解

  • これらの意見を総合的に判断すると、当初の根拠である違法行為の主体としての責任追及の可能性は否定できないものの、こうした解釈自体が確定的であるわけではなく、今後の判例などによって方向が左右される流動性の高い問題である事が分かりました。そのため、現時点で「必ず住所が必要である」と断定するまでの根拠とはならないと認識を新たにしました。

個人情報の用途について

  • 住所や氏名情報の用途が不明確であるとのご指摘を頂きました。
  • はてなの業務提携先企業に、住所や氏名が提供されるのではないかというご質問を頂きました。

はてなの対策・見解

セキュリティ対策について

  • 住所という重大な個人情報を管理するにあたり、はてなの情報管理体制に対する質問やご意見を多数頂きました。
  • 昨今個人情報漏洩事件が増加しており、漏洩に対する不安感のご指摘を頂きました。
  • プライバシーマークの取得を行ってから住所登録を行うべきであるというご意見を頂きました。
  • はてなのシステム上、cookieやパスワード確認などの認証システムを改善し、より安全性の高いものにするべきであるとのご意見を頂きました。

はてなの対策・見解

  • システム上の認証システムについては、cookie有効期限の見直しや、SSL通信の固定化などの対策を早速行いました。また今後、登録変更ページにパスワード確認を設けたり、全てのパスワード確認画面を暗号化するなどの対策を行っていきます。
  • 社内の情報管理体制については、既に行っている取り組みを改めて社内で確認するとともに、概略をプライバシーポリシーに明記しました。また、セキュリティー対策の専門家に相談を行い、現状で対策が不十分である部分の洗い出しと対策を2004年12月中に行い、その後、プライバシーマークISMS準拠などの第三者機関の認証取得を検討していきます。

表現の自由について

  • 個人情報の開示条件についてのご質問がありました。特に、警察署からの照会が行われた場合の開示に関するご質問が複数ありました。
  • 削除申立があった際にまずプライベート化する方法について、管理者の強権に対する危機感や、言論空間が殺伐とするのではないかという意見がありました。
  • 必要な担保を預けることで、自由な言論を保証して欲しいという意見がありました。
  • 半匿名だからこそ日記に書けることがあるという意見がありました。

はてなの対策・見解

  • 警察からの照会など法的拘束力がないものについては開示条件から外し、プライバシーポリシーを変更しました。
    • 犯罪捜査への協力など、任意の情報開示を主体的に行う場合は、生命、身体、財産に対する差し迫った危険性がある場合や、当社の権利、財産やサービス等を保護するため必要と認められる場合といった他の開示条件項目で補えると判断しました
  • インターネット上のハンドル名による活動から生み出される言論に一定の価値があることは確かであり、これを一概に否定することはできないと考えます。表現の自由は最大限保証されるべきですが、はてなが必要以上に責任を負うこともできないと考えます。
  • はてな内の削除基準を明確化し、より広く告知を行い、ユーザーや第三者の批判を受けられる体制としながら、基準にのっとりより迅速に発信者への照会、プライベート化、削除等の措置を行っていきます。

はてなのサービスについて

  • 住所を登録することによりユーザーが受けられるメリットや今後の展開についての質問が多く寄せられました。
  • 個人情報を有効に活用したビジネス展開を行うのかどうかについて質問を頂きました。
  • アンテナだけを利用するのに住所が必要な理由が分からないという意見を頂きました。

はてなの対策・見解

  • はてなアンテナはこれまで権利侵害行為が横行した経緯はほとんど無く、単体で見れば住所登録の必要性が低いと言わざるを得ないと考えます。
  • 住所情報を活用した事業展開は、将来的な可能性として大きなものであると考える一方、住所登録が必須となるサービスで既に展開が決定しているものは無い状況でした。今後そのようなサービスが追加される毎に、事前に告知を行い、登録選択制などの仕組みを導入していきます。
  • 住所を登録する妥当な理由が無い場合に、ユーザーへの住所登録を求めません。

総括

今回の住所登録問題の結論を考えるにあたっては、株式会社はてなが、そもそも何を目的として「はてな」というサイトを運営していくのか、という根本的問題を避けては通れませんでした。

今回の検討をするにあたり、以下の2点が大きな目的であると改めて認識しました。

  • ユーザーに価値あるサービスを提供すること
  • 社会に価値あるサービスを提供すること

利益を最優先する考え方ではなく、ユーザーの皆さんやはてなをご利用頂ける方々に喜んで頂けてこそ、はてなはその存在価値を発揮できると考えています。

多数のユーザーの声を無視し、方針転換を急ぐことは、ユーザーの皆様に価値のあるサービスをご提供することを当初想定していた以上に損なうものであると考えました。

二度に渡って大きな方針転換を行う事になり、ユーザーの皆様に混乱を招き大変申し訳ございません。特に、こちらからのご連絡により住所をご登録頂いた多数のユーザー様に深くお詫び申し上げます。

はてなでは、今回の件を通して、いかにはてなというサービスがたくさんの方々に影響し、また、そうした方々に対しての公共性や常識といった責任を負ったものであるかを改めて自覚しました。

今後、こうした認識を新たにした上で、これまで以上により良いサービスの提供を目指して行きたいと考えています。

どうぞよろしくお願いします。